矯正治療といえば、「歯に何か装置をつけてきれいに歯並びを治すこと」と思います。
これは対処療法的には正しいですが、澤本歯科医院では少し視点を変え、「なぜこの歯並び、かみ合わせなのか」という発想から問題点を考え、治療方針を決めています。
澤本歯科医院の基本理念には予防が最も優れた医療であるという考えがあり、それは矯正治療に関しても同じです。
「歯並びが悪いのは遺伝」とあきらめてはいませんか?もちろん、歯や、顎の形は幾分かは声や顔が似ているように遺伝的な要素があります。
しかし、本来人は「歯は並ぶ」遺伝子を持っています、「並ばない理由」を考えていく必要があります。
「歯並び・咬み合わせ」が良い人と悪い人は何が違うのでしょうか?
歯並びに直接的に影響する因子はそれを支える顎の骨の大きさと形、口の周りの筋肉(特に舌は大きく作用します)です。
下顎の形は遺伝的な要素が少なからずあり、受け口で下顎が大きめの親御さんの場合は、お子様も受け口で下顎の成長は大きい・もしくは上顎の成長は小さい傾向がみられます。
それに対して、上顎は複数の骨の集合体であるため容易に形を変えます。
特に成長する時期にうつぶせ寝や頬杖で上顎を内側に押し込む癖(態癖)があると、上顎は左右非対称に変形します。
乳児期の寝る姿勢で頭の形が変わることは皆さんご存知だと思います。
また、上顎に対し舌が成長を促進するプラスの影響を与えています。
「鼻呼吸」ができている人は上顎(口蓋)にピタッと舌が張り付いており、これが上顎をU字型に形良く広げてくれます。
成長期は舌も大きくなるので、それと共に、少しずつ上顎も大きくなっていきます。
しかし近年「口呼吸」の人=舌の位置が低い が増え、この舌のプラスの力が上顎にかからず、上顎が十分に成長しないため歯列不正の人は増えていると考えています。
上顎の成長は多少の個人差がありますが9歳くらいまで続くと言われています。
成長が止まる前にその子が持つ本来の成長力を引き延ばすことが重要です。
したがって予防を基本理念に持つ歯科医師たちは、マイナス1歳からのアプローチが必要と言っています。
つまり、母親・父親になる方には(妊娠する前に)子供の成長に関する知識を身につけてもらう必要があるのです。
妊娠中の母親や胎児の姿勢
お母さんの乳房をどのように赤ちゃんに咥えさせ、吸わせるか。
ハイハイをたくさん行う環境つくり。
離乳食の食べさせ方。
幼児食の献立や食べ方。
歯、顎、唇をたくさん使って食事をする方法。
外でたくさん遊ばせること。
このような事を知らない、行いにくい環境になっています。
上顎のすぐ上には鼻がのっています。
したがって鼻はその土台になる上顎と一緒に成長します。
上顎の歯並びが悪い=上顎の発育不全=鼻の発育不全=鼻が詰まっている=呼吸がちゃんと出来ていない=酸欠で身体・頭脳の発育が不利、病気になりやすい、喘息やアトピー等のアレルギー、いびきをかく、大人になって睡眠時無呼吸症候群やパニック症候群になるリスクが高まる
等の法則が当てはまります。
当院が行いたい矯正治療は見た目の歯並びだけを綺麗にする、ということではありません。
上顎をその子供が持つ本来の成長を促し、歯並び・呼吸の改善からさらに良い成長・発育を促すことです。
下顎は「咬合力」という噛む力の影響を受けます。
上顎が小さければ、それとかみ合うために下顎の歯列も内側に倒れたり、凸凹となって歯列不正を起こします。さらに下顎は「顎関節」で頭蓋骨にブランコの様にぶら下がっているため「態癖」や咬癖などの影響を受け、顎の位置がずれてしまいます。
この様に「不正咬合」といっても様々な種類があり、もともと持った不正咬合になりそうな遺伝的な因子以上に、「呼吸(鼻呼吸と口唇閉鎖)・噛む力・咀嚼・嚥下(飲み込み)・首や全身の姿勢」などの生まれてからの成長過程での影響や、「虫歯や歯周病などによる歯の形態不良や欠損」などの歯そのものの影響などを受け、現在の歯並びになっているのです。
子供の矯正治療の考え方と成人からの矯正の考え方は少し違います。
子供の矯正の考え方は成長発育と共に、「その子が持つもともとの成長方向への誘導」です。
態癖や口呼吸があればそれを改め、成長にマイナスになる因子を排除し、プラスになる方法を推進します。
様々な治療装置を用いなくても、これだけのことで歯並びが改善するケースが多くあります。
したがって治療の介入は早ければ早いほど効果は上がります。
成長不全の原因を取り除かずに「しばらく様子を見ましょう」は大きな間違いです。口の中の成長が止まってしまうと(平均9歳)成長を利用した治療はできなくなります。
その結果アメリカを中心として発達してきた健康な歯を抜歯し、その隙間を利用して歯を並べるという従来の治療がいまだに行われています。
歯を抜くということは口の中の体積が減少するということです。靴が入らないからと言って足の指を抜きますか?
できれば歯を抜かないで治療をするにこしたことはありません。
正しい成長が起きるためには普段の生活習慣がとても大切です。
そのためお子さんが生まれる前から母親・父親に正しい知識を伝えることが必要だと考えています。
また現在の子供たちは、体幹が弱すぎます。
歩かなくなったこと、ゲーム機の普及、西洋化が進み「ハイハイ」をすることが短くなったことなども歯列不正を誘発していると感じています。
さらに最近の子供たちの10名に1名は「先天欠如(本来ある歯の不足)」があります。
ですから7歳くらいになったら一度レントゲン検査を受け、確認してもらう必要があると思います。
成人の矯正は「建て直し」の治療です。
もともと不正咬合や歯科治療、欠損状態の長期化などが原因で歯列がゆがみ、長年の気づかない態癖により下顎の位置がずれている人、それに伴う「顎関節症」の方が当院では多く来院されています。
成人に対して行うことは「口腔のエイジング」の加速化の予防です。
もともとあるべき位置に歯を動かし、必要があればかぶせ物で歯牙の形を修復し「口腔の建て直し」を図ることで、かみ合わせのバランスを整え、歯だけでなくそれをささえる「歯周組織」が健全で長持ちするようにサポートする治療です。
子供と違い顎骨の成長誘導ができませんから、治療に限界はあります。
しかし、逆を言うと、冠をかぶせたり、インプラントを用いるなど様々なバリエーションの治療が可能です。
「歯並び」の治療としての矯正治療ですが、大人も子供も共通なのは「身体の一部としてのかみ合わせをつくる歯並び」であること。
見た目だけの歯並びは永続性がありません、機能に合わせた噛み合わせと歯並びがとても重要です。
以前優秀な矯正専門医が仰っていたのですが、
「従来のアメリカを中心に発達した、抜歯を行いスペースを作り歯を並べる矯正治療は、見た目だけ綺麗に歯が並ぶだけで他の多くのことを犠牲にしてしまっている」
とのことでした。
私はその言葉に強く賛同します。
2010年代頃から欧米の矯正、補綴(被せ物や入れ歯、かみ合わせ)の専門医を中心に、気道(Air Way)を考えた歯科医療というテーマがしばしば顕在されるようになりました。
かみ合わせや歯並びがその人の呼吸、特に睡眠時無呼吸症に大きく影響を与えることが分かってきています。
抜歯をして歯を並べることで口の中の容積が狭くなり、舌の置き場がなくなり喉をふさぎやすくなる。
入れ歯が小さく舌の置き場がなくなり喉をふさぎやすくなる。
今まではわかっていなかったことが解明されつつあります。
口の中の容積が狭くなると呼吸や飲み込み、視力などにも悪影響を与えることがあるのです。
見た目も大事ですが、しっかり噛めて長持ちし良い成長を促す「歯並び」を育成するには、食生活、生活スタイル、態癖、咬み癖、呼吸や舌も含めた姿勢を診る事が大事だと考えています。
そのためには患者さんの理解と協力なしでは治療がうまくすすみません。
澤本歯科医院では患者さんと一緒に悪くなる原因を取り除き、歯並びだけではなく、顎関節、呼吸、咀嚼、嚥下、姿勢、成長にも良い影響を与える医療を提供していきたいと考えています。